相続で戸惑わないための知識編 (相続時精算課税)

両親がいくら元気だとしても、いつかは来る相続。その時になって慌てないようしっかりと備えておくことは大切です。

相続で家族が揉めないため、また債務を相続しないためにも、準備しておくことは重要だと考えました。
そこで、私が相続する事になった時の備忘録として、いくつかのテーマで作成してみました。
おそらく高齢の母に代わり私が色々と手続きをすることになると思います。(私の母が喪主になった場合の一時相続を想定して書いています)

今回は、相続と並んでよく話題に上る生前贈与についてです。
生前贈与には、暦年贈与と相続時精算課税制度があります。

それぞれ、節税について色々なことが言われていますが本当のところはどうでしょうか?
今回は、贈与の中でも、相続時精算課税について考えてみました。

1.相続時精算課税制度の概要

60歳以上の両親、祖父母から20歳以上の子や孫に贈与をした場合に選択することができます。

父からは相続税精算課税制度を利用し、母からは暦年課税を利用するといった選択も自由に出来ます。

①2500万円までを課税金額から控除できます

②贈与をうけた財産の贈与税は相続時に納付します

③贈与をうけた財産は、相続財産として算入されるので相続税として算出されます

④③で算出された相続税から、2,500万円を超える部分の納付済みの贈与税が差し引かれます(還付もあります)

⑤贈与総額から2500万円を超えた額に、一律20%の贈与税が課税されます

⑥一度利用するとその後は暦年課税に戻せなくなります。

⑦しかし、相続する前に、多額の現金を一度に贈与することが出来ます

⑧暦年贈与による税率より、相続税率の方が低いので節税効果が見込めます

⑨もし相続時に、相続財産と算入された額の合計がより基礎控除額が多ければ相続税はゼロになります。そうすると、納付済みの贈与税は全額還付されることになりますので、利用する価値は高いと言えます。

2.相続時精算課税制度で節税できるケースがある

・相続時精算課税制度は、生前に贈与された財産の価額の2500万円まで控除されたように見えますが、相続の時に、相続財産として全てが持ち戻しされてしまいます。そのため、節税効果は暦年課税の方が効果は大きいです。

しかし、財産によっては節税できる場合があります。

・現金を贈与する場合は贈与時と相続時の価値は変わりませんが、書画骨董品などでは、価値が変わります。

・それは、相続財産と合算する贈与財産の価額は、【贈与時の価額】とされているからです(国税庁HPより)。

①相続時と贈与時で財産の価値が変わらない場合は、節税効果はありません

②相続時の財産価値が贈与時より上昇が見込める場合は、贈与時の相続税評価額で計算されるので節税効果が見込めます

③相続時の財産価値が贈与時より低下が見込まれる場合は、かえって相続税が増えるリスクがあります

④マンション等の収益物件の場合は、相続時に評価額が低下していても、その税額の差額以上の収益があればトータルでは節税にできることになります。

3.相続時精算課税を利用した場合の贈与税額の計算式#1

贈与税額=(課税価格-2,500万円)×一律20%

《例》父親が1億円の財産を持っていて、相続人は妻・長男・長女の場合。

長男が相続時精算課税を使って3000万円の贈与を受けたとします。

贈与税は、3,000万円のうち、2,500万円までは非課税なので

贈与税額=(3,000万円-2,500万円)×一律20%=100万円となります。

4.相続時精算課税を利用した場合の相続時にかかる相続税の計算式

①相続財産から基礎控除額を差し引いて課税遺産総額を算出します。

相続時には、3,000万円贈与したので、残額は7,000万円ですが、
長男に贈与した3,000万円は相続財産に戻されて計算されるので1億円が相続財産とみなされます。

1億円-(3,000万円+600万円×3)=5,200万円

②法定相続分に応じて相続税の総額を計算します。

妻:5,200万円×1/2=2,600万円     2,600万円×15%ー50万円=340万円

長男:5,200万円×1/2×1/2=1,300万円  1,300万円×15%ー50万円=145万円

長女:5,200万円×1/2×1/2=1,300万円  1,300万円×15%ー50万円=145万円

相続税の総額は、340万円+145万円+145万円=630万円ですが、
長男は、贈与税を100万円納付しているので、630万円から100万円を差し引いた530万円が相続税総額となります。

結局は、相続時に発生する税額を支払うことになるため、全く節税効果はありませんが、
相続前に多額の財産を渡せる意味では、時間のメリットは大きいかも知れません。

相続前に財産を委譲できれば、そのお金を基に事業を興して多額の利益を上げているかも知れません。
財産の有効利用と時間を得られると考えると節税以上の物が考えられます。

5.相続時精算課税制度を利用した場合の贈与税額の計算#2

長男が下表のように受け取った財産に対し、相続時精算課税制度を利用した時の贈与税の額を計算する。

ただし、母からの贈与に関して、相続時精算課税制度の利用は平成30年度からとする。

贈与年月 贈与者 贈与財産 贈与時の相続税評価額 贈与時の取引価格
平成29年8月 有価証券 1,800万円 2,000万円
平成29年10月 現金 100万円 100万円
平成30年2月 宅地 500万円 700万円
平成30年9月 宅地 3,000万円 3,200万円
平成30年12月 現金 110万円 110万円

贈与者ごとに適用されるので、父と母を別々に分けて計算します。

①父からの贈与分の計算を行う

平成29年度分は、2,500万円−1,800万円=700万円 2,500万円以内なので、非課税です。

平成30年度分は、700万円−500万円=200万円 まだ200万円の枠が残っているので、非課税です。

②母からの贈与分の計算を行う

平成29年度分は、暦年贈与の基礎控除額以内なので、贈与税はゼロ円

平成30年度分は、(3,000万円+110万円)−2,500万円=610万円

(110万円は、暦年贈与は使えないので、全額が贈与税の課税対象になります)

2,500万円を超えた金額に一律20%の税率がかかるので、610万円×20%=122万円

よって、

平成29年度分の贈与税額は、ゼロ円

平成30年度分の贈与税額は、122万円になります。

6.相続時精算課税制度を利用するメリットとデメリットのまとめ

相続時精算課税制度のメリット 相続時精算課税制度のデメリット
・財産移転が相続より早期に可能

相続のときにすでに支払っている贈与税と相続税が精算されるため抜本的な節税対策にはなりませんが、早期に多額の財産を非課税で移転できることがメリット。

・値上がりが見込める財産(不動産など)を贈与するときは節税効果有り

・一度使うと、暦年贈与に戻すことができない

・相続税が発生する

・贈与を受けた財産は、相続税として再計算され贈与税と相殺されるので、一時的に贈与税の納付が不要でも相続時に精算される。

・小規模宅地等の特例が受けられないなど。

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