相続で戸惑わないための知識編 (相続放棄と遺贈)
両親がいくら元気だとしても、いつかは来る相続。
その時になって慌てないようしっかりと備えておくことは大切です。
でも、「相続なんて、相続税を払うぐらいの財産がある人しか関係ないんじゃないか」と考えていませんか?
それは間違いです。
近年、家庭裁判所が扱う遺産分割の調停は、相続税のかからない家庭のケースが増えてきています。
つまり相続税がかからない家庭であっても、揉めているケースは多いと言うことです。
逆に、5000万円以上の資産のある家庭では調停は少ない傾向にあります。
また被相続人が、事業などで借金を抱えている、連帯保証人になっているといった場合も考えられます。
財産がなくとも、負債がある場合、安易に相続してしまって、思わぬ借金をかぶることも大いにあり得ます。
相続で家族が揉めないため、また債務を相続しないためにも、準備しておくことは重要だと考えました。
今回、私が相続する事になった時の備忘録として、いくつかのテーマで作成してみました。おそらく高齢の母に代わり私が色々と手続きをすることになると思います。(私の母が喪主になった場合の一時相続を想定して書いています)
もしも相続放棄が必要な場合や遺贈があった場合にどうすれば良いか?調べてみました。
1.放棄には、相続放棄と限定承認があります
1.1 相続放棄と限定承認の比較表
相続放棄(被相続人が亡くなってから期限は3ヶ月) | 限定承認(被相続人が亡くなってから期限は3ヶ月) |
・全ての遺産を相続しない。
・初めから相続人ではなかった扱いになる。 ・明らかに債務超過している場合に適している ・相続放棄するとその後の代襲相続は発生しない。 ・生命保険金は受け取れる(受取人である場合) ・跡継ぎに不動産を相続させるなど、特定の人物に遺産をまとめることができる。 ・墓石などの祭祀財産は、相続放棄しても承継できる。 |
・財産から負債を支払い、残金を相続する方法。
・借金しか残らない場合は、相続をせずに済む。 ・債務超過かどうか不明な場合に利用する。 ・相続人が全員で行わなければならず、誰か1人でも単純承認をすると、限定承認はする事ができなくなる。 |
・一度手続きをすると、3ヶ月の期限内であっても撤回が出来ない。 |
1.2 相続放棄は相続開始前はできないが、遺留分の放棄はできます
・生前に跡取りへの財産を全て譲る目的で、他の相続人に相続放棄をして欲しい旨の話をよく聞きます。しかし、相続開始前に相続放棄することは法律上できません。
・生前に「相続放棄する」と念書や誓約書を書いても無効です。
・しかし、「遺留分の放棄」は生前にする事が可能なので、遺言で遺留分を侵されるような割合で遺産分割されていても揉めることはないですね。
1.3 相続人の一人でも単純承認すると限定承認は認められません
では、単純承認が成立する場合とは、どんな場合でしょうか?
相続財産を次のような扱いをした時です。
・不動産を売却したときや、預貯金を払い戻して自己のために使った場合など。
・相続財産を壊した場合や捨てた場合。
・相続財産を隠匿した・背信的な行為をした。
・法定単純承認にならないケース
相続財産の保存行為や形見分け。
1.4 相続放棄しても、放棄した財産の管理義務は負います。
・相続財産を棄損した、他人に損害を与えた場合は、相続放棄をしていても損害賠償責任を負う可能性がある。
・すべての相続人が相続放棄して、相続する人がいない場合は、「相続財産管理人」を選任し、相続財産を精算します。
1.5 その他、
特定の相続人に自分の相続分を譲りたい場合に、「自分の相続分を譲渡する方法」があります。
相続分の譲渡は、自分の法定相続分を、自分以外の人に譲渡することで、共同相続人や相続人以外の第三者にも譲渡することができます。ただし、相続分の譲渡をしても、債務も相続しているので注意が必要です。故に、遺産の中に負債がある場合は、相続分の譲渡ではなく相続放棄をした方がよいです。
2.死亡保険金の扱い
死亡保険金や死亡退職金はみなし相続財産として相続税の対象になりますが、保険金受取人の固有の財産です。
よって、保険契約者と受取人によって、死亡保険金の課税が異なります。下図のように、
①の場合は、相続財産になるため、相続放棄すると受け取れませんが、②、③の場合は、相続財産ではないので、受取人固有の財産扱いとなりますが、相続税の課税対象にはなります。でも、【法定相続人の数×500万円】までの非課税控除額があります。
保険契約者
(保険料の支払者) |
被保険者 | 保険金
受取人 |
保険金の扱い | 備考 | |
① | 被相続人 | 被相続人 | 被相続人 | 相続財産になる | 相続放棄すると受け取れない |
② | 被相続人 | 被相続人 | 妻 | 妻の固有財産(相続税の対象) | 相続放棄しても受け取れる |
③ | 被相続人 | 被相続人 | 子 | 子の固有財産(相続税の対象) | |
④ | 妻 | 被相続人 | 妻 | 妻の一時所得 | 相続財産ではない |
⑤ | 妻 | 被相続人 | 子 | 妻から子への贈与 | |
⑥ | 子 | 被相続人 | 子 | 子の一時所得 |
3.遺贈の場合の相続放棄
・特定遺贈の場合は、借金を相続しないので、相続放棄だけを行います。
・包括遺贈の場合は、「遺贈の放棄」と相続放棄の両方が必要です。
4.遺贈の概要
・遺贈とは、遺言によって指名した人に財産を与えること
・遺贈を活用すれば誰にでも自由に財産を渡せる。
・お世話になった方々、血縁や家族関係がない相手でも財産を贈ることが出来る。
・色々な団体への寄付も可能です。
4.1 遺贈には、包括遺贈と特定遺贈がある
包括遺贈は、残された財産を一定の割合で分割するため、遺産分割協議に参加しなければなりません。
特定遺贈は、指定された財産を貰うものです。
包括遺贈と特定遺贈の比較表
包括遺贈 | 特定遺贈 |
贈る財産の割合と相手を指定する | 贈る財産と相手を指定する |
財産が増減しても一定の割合を残せる | 遺言で指定がなければ、受遺者は借金を引き継がない |
不動産取得税が課されない | 不動産取得税が発生する |
遺言の指定された割合で債務を負う |
4.2 遺贈・死因贈与・負担付遺贈の比較
遺贈の他に、生前にもし自分が死んだら財産を贈るという約束をしておくのが、死因遺贈があります。
遺贈 | 死因贈与 | 負担付遺贈 |
遺贈者の一方的な意思表示 | 贈与者・受贈者双方の合意で成立
口約束でも有効 |
財産を与える見返りとして受遺者に一定の負担を課す遺贈の方法 |
放棄可能 | 放棄不可 | 負う義務は、贈られる財産の範囲内 |
4.3 相続と遺贈では、控除や相続税額が異なります
相続 | 遺贈 |
基礎控除あり
基礎控除=3,000万円+600万円×法定相続人の数 |
基礎控除なし
受遺者の相続税は2割加算されます |